笛吹きもぐらのあなぐら歳時記

慢性疲労症候群の俳句日記

季語:寒菊

寒菊や病にたえてアルペジオ

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 先の春に体調をくずした。全身が怠く、体重は10kgもおちて、生活するだけで精一杯という状況に陥った。
 その不調が、なかなか改善しない。医者にかかってあれこれ調べてもらったのだけど、どれだけ調べてもこれだと言い切れる原因が分からず、なかなか事態はいい方向に動かなかった。
 とにかく体が重く、疲れやすい。その疲れというのが尋常な疲れではなく、無理をして仕事に通っていたら、ついに職場で倒れてしまったほど。一度休職し、二ヶ月ほど休んでから復職したのだけど、なにせ原因が分からないのでドクターも治療のしようがなく、体の調子はそのままなので、一ヶ月後にまた倒れてしまった。

 こんな具合だから、趣味で続けていた音楽をいったんお休みした。とても音楽どころではない。練習もできない。以前であれば、休みの日は楽器をもってあちこちにでかけていたのだが。
 症状に苦しみつつ、療養を続けると同時に、あちこちのお医者様を訪ね歩いた。秋頃に漢方医のドクターに出会い、そちらで処方していただいた薬が効果を発揮するとようやくわかった。調子はあがったりさがったりをくりかえしつつも冬至のころにはなんとか、落ちた体重の半分くらいをとりかえし、休んでいた仕事も週に三度くらい、半日なら出られるようになった。

 長い間自宅にこもり伏せっていたので、体力は非常に失われている。無理をしないことも大事だが、動けるならばなるだけ動いて、体力を取り戻そうと考えた。僕はせっかちな質である。寝て待つということができない。近所を散歩するところから始め、調子の良い時には、しばらくやめていた楽器の練習を始めた。

 車で街のはずれまで出かけていって、人気のないところで練習する。ロングトーン、スケール、アルペジオ・・・。すぐに息があがって苦しい。しかし、久しぶりに楽器を鳴らすのは気持ちいい。体のあげる悲鳴を、楽器の音でかき消す。
 フェンスの向こうは、一面の枯れ芒。曇り空から吹き下ろす寒風にかさかさとゆれる枯れ野原をにらみながら、僕はトレーニングを続ける。ふと、足もとに小さな花が咲いていることに気づいた。指先ほどの大きさの太陽が、凍えて揺れている。負けるものかと、風に耐えて縮こまっている。
 枯れ野原の際にひと株の、寒菊であった。